10年に1度の猛暑に見舞われている今年の夏。北海道も人だけでなく、動物にとっても厳しい暑さが続いています。愛犬を熱中症にさせないため、また、万が一なってしまった際、どのように対応するのがベストなのでしょうか。
話を伺ったのは、札幌近郊に住む飼い主であれば、お世話になったことがある人もいるかもしれません。「札幌夜間動物病院」の川瀬広大院長です。夜から朝まで、緊急性の高い状態で担ぎ込まれる動物たちを診ている川瀬院長。熱中症から大切な愛犬を守るため、ぜひご一読ください。
プロフィール
「札幌夜間動物病院」川瀬 広大 院長
2007年 3月
酪農学園大学 獣医学部(伴侶動物医療部門 麻酔科)卒業。
2007年 4月~
愛知県茶屋ヶ坂動物病院に勤務し、心臓外科、心臓麻酔、 体外循環、集中治療を学ぶ。
2012年 6月~
北海道ハート動物医療センター、富良野アニマルクリニックに勤務。2014年 1月~ 札幌夜間動物病院に勤務、現在に至る。
2018年 3月
酪農学園大学にて博士(獣医学)を取得。
熱中症は「暑熱環境」、疾患などからくる「労作性」がある
ーーまずはペットの熱中症について、基本的なことを教えてください。
川瀬 一般的に熱中症と聞くと、暑い環境で高体温になり、40℃以上(犬の平熱は大体38.5℃〜39℃前半)まで上昇して、呼吸が荒くなったり、ぐったりするのをイメージされるかと思いますが、実はもう一つあります。呼吸器疾患や痙攣発作などが起因して体温が上がる「労作性の熱中症」です。
当院では6〜9月にかけて、日中仕事していた飼い主さんが帰宅すると「閉め切った部屋で留守番をさせていたペットがぐったりしていた」と駆け込んで来られるケースがあります。北海道はまだまだエアコンのないお家が多いのも原因の1つかと思います。
2021年1月〜2022年12月までの当院の調べでは、熱中症関連で来院されたペットの数は約13000件のうち、49件。通常の病院では夏季間、さらに多くの熱中症に関連した受診があるのではないかと思います。
犬種別に見ると、やはりパグやフレンチ・ブルドッグなど、暑さに弱い短頭種が多いです。他にはトイ・プードルも少なくありません。飼育頭数が多いというのも考えられますが、近年、愛犬とお出かけしたい方が増えていますよね。意外と多いのが、夏のアウトドア時や、車の中に置いてしまって……というケースです。
北海道でもエアコンは必要な時代
ーー実は編集者(後藤)の自宅もまだエアコンがなく、さらに愛犬は分離不安気味なところがあるため、帰宅すると部屋はそれほど暑くなくても、犬の身体だけ熱を持っていたりします……おそらく、留守番中にケージ内をうろちょろしたり、吠えてしまっているからだと思うのですが。
川瀬 それこそ、労作性の熱中症を引き起こしてしまう可能性があります。すぐに分離不安症を改善するのは難しいと思いますので、まずは暑熱環境を和らげるのが優先。温暖化でどんどん気温も上がっていますから、エアコンをつけることをオススメします。費用はかかりますが、大切なペットが命の危険に晒されることや治療費を考えると、エアコンをつける方がずっと有益だと思います。
ーーそうですよね……(川瀬院長に背中を押され、エアコン設置を申込みました)。熱中症になると、どんな症状が出るのか、その危険性を教えてください。
川瀬 最もわかりやすいのは、ハァハァとパンティングしたり、身体が熱くなることです。もう一つは「食欲低下・嘔吐・下痢」といった消化器症状。さらに体温が上がり、41℃以上になると、意識障害や痙攣を引き起こすこともあります。もともと疾患を抱えている場合は、治療が長引いたり、神経にまでダメージがあると、後遺症が現れることも。重症になると、命にも関わってきます。
「ゆで卵は生卵に戻せない」とイメージしよう
ーー熱中症の恐ろしさを「ゆで卵は生卵に戻せない」と表現されることもありますよね。
川瀬 まさしく、ですね。そうならないためにも「防げる事故は防ぐ」意識と環境づくりが最重要です。知ってさえいれば防げることって、たくさんありますよね。
例えば、夏の車内はすぐに気温が上がりますから、短時間であっても車の中に放置しない、留守中の室温調整などが大切です。例え冷房をつけていても、飼い主が見えていない環境である以上、吠え続けたりすれば、簡単に体温は上がります。短頭種や体温調整の難しいハイシニア、疾患のある犬は特にリスクが高いため、気をつけて暮らしていただきたいです。
そしてエアコンのリモコンは、床などペットの手の届くところに置くのはやめましょう。いたずらして運転を止めてしまったり、暖房に切り替わってしまうといった話を聞いたことがあります。
また、アスファルトがまだ熱い時間帯に散歩で歩かせるのもNGです。熱中症だけでなく、肉球が火傷してしまう可能性もあるため、人の感覚で「そろそろ涼しいかな?」と思っても、まずは地面に触れて温度感を確かめてください。
いま時期は早朝や夜に散歩する人も増えていますが、その際に気をつけていただきたいのが、暗い場所でキノコなどの拾い食いです。誤食に繋がらないよう、注意して見てあげてください。
札幌近郊以外でも、夜間救急はまず電話を!
ーーそこで今年度のわんにゃんハート会員特典「光る首輪」が活用されそうですね(しれっとPR)。話は戻り、もしも熱中症かも?と感じる症状があったら、夜であっても様子見をせず、病院に行くことが大切ですね。
川瀬 はい。熱中症に限らず、何か不調を感じたら、早めの受診をオススメします。札幌以外にお住まいの方であっても、夜間に緊急性が高いと感じる症状があった際には、まず当院にお電話(011-281-1299)いただけると、何かお力になれるかもしれません。動物も人も、みんな無事に今年の夏を乗り越えられることを願っています!
ーー優しい笑顔と柔らかな口調で解説してくれた川瀬院長、ありがとうございました!
「札幌夜間動物病院」
住所/札幌市中央区南二条西7丁目5−6第3サントービル2F
電話/011-281-1299
診療時間/平日 19:00~翌6:00/日祝 14:00〜翌6:00(年中無休)年中無休
HP/https://sapporo1299.net