少子高齢化が進み、子どもの数よりも、犬や猫などのペットが増えている現代。ペットを我が子同前に愛する人がいる一方で、シニアが病気になり、簡単に手放してしまう人も後を絶たない。

そんな現状に疑問を持ち、自身の〝終活〟として、札幌市に「老犬ホーム」を設立した女性がいる。「ティアハイム・ノア」は、さまざまな理由で世話ができなくなってしまった飼い主に代わり、最期の瞬間までサポートする〝犬の家〟だ。代表の三野宮知恵さんに、設立までの経緯や現状、老犬たちへの想いを聞いた。

ティアハイム・ノアを開園したのは、3年前。三野宮さんが、きっかけを語る。

「子育てが落ち着き、次はなにをしようか…と考えていたときのこと。近所に住む老犬の飼い主さんが『ペットホテルでは、うちの子は預かってもらえない』と肩を落としていました。一般的にペットホテルは、老犬や元気のない子はウエルカムではないようです。しかし、私たち飼い主には、冠婚葬祭などの一時的な用事から、入院や施設に入るといった長期的なものまで、家を空けなければいけない機会が訪れます。そんなとき、飼い主さんが安心して愛犬を託せる場所があれば…と思いました。

また、本当は犬が大好きなのに〝高齢だし後見人もいないから、犬とはもう暮らせない〟と、犬を迎えられない人もいます。しかし、老犬ホームという場所があれば、その子も飼い主さんの想いも、守ってあげることができます。私自身も、生涯、犬と関わっていきたい人生。そんな場所が必要だと感じました」

そこから三野宮さんは、食事や病気についてなどの基本的なことから、ペット業界の闇まで、犬についてを幅広く学んだ。

「ティアハイム」とは、ドイツ語で〝動物の家〟という意味を持つ。ノアは「ノアの方舟」から来ており「人よりも先に動物を助けたい」と三野宮さんは考える。

当ホームでは、まず利用希望者をカウンセリングするところから始まる。犬の状態やこれまでの環境についてなどをヒアリングするが、基本的にはどんな犬でも受け入れが可能。病気や認知症を患っている場合も、断ったことがないという。最年長は〝享年22〟のシェルティmixだった。

「ここには、いろいろな考え方の飼い主さんが訪れます。中には『おじいちゃんが飼っていた犬だけど、介護施設に入るから、連れてきた』と親族が連れてきたことも。その子は爪が伸ばしっぱなしで、耳の中は真っ黒、骨は変形していました。あまりの状態の悪さに、本当に大事にしていますか?と、意見したこともあります。

「終生飼育」は、本来当たり前のこと。飼い主としての責任やモラルを遵守しない人に、動物と暮らす資格はありません。

その子は約2カ月預かり、検査や治療などを経て、見た目も若返りました。可愛らしくなった姿に愛情が湧いた飼い主さんは、それから大切にしてくれるようになりました」

中には「終身預かり希望」を依頼してきた飼い主との間で、トラブルが起きたこともあるという。

「認知症重度の犬を『何も異常はない』と虚偽の申告をされたケースです。あまりにも辻褄が合わず、再度飼い主と話をしたら『名前を呼んで、寄ってくるときは可愛かった』『いまはもう、あの子じゃない。受け入れられない』『安楽死も考えた』という身勝手で無責任な主張ばかり。

100歩譲って、動物管理センターに連れて行かなかったのはよかったと思います。しかし、飼い主との信頼関係の維持が難しいと考え、退所いただきました。その子はそのまま別の施設に運ばれ、すぐに亡くなったと耳にしました。とても胸が痛かったです。

飼い主がどんな人であれ〝私と犬が、どう信頼関係を築くか〟がなによりも大切だと思っています。1泊でもうちに来た子には、愛情が湧きます」

取材した6月19日、当ホームには、最年長(18歳6カ月)のパピヨン、メリアを始め、シニアのトイ・プードル2匹、そして看板犬たちがくつろいでいた。


他の犬が苦手でなければ、基本的にはみなケージフリー。清潔で明るい「プレイルーム」で過ごす。暖かい時期には、隣接しているドッグランで日向ぼっこさせることも。三野宮さんは「ご自宅以上に快適な環境を目指せたら」と話す。

夜はプレイルームに布団を敷き、犬たちと一緒に眠る三野宮さん。

「みんな布団に乗ってきて、とても癒されます。シニアが多いので、歯周病の匂いが漂うこともありますが、それもまた愛しいというか(笑)。施設ではなく、あくまでもここは〝この子たちの家〟ですから」

しかし、必ず訪れる最期の瞬間。三野宮さんは「息を引き取るときは、できるだけ家族のそばであってほしい」と話す。

「365日、私一人でお世話しており、なかなか余裕はありません。細く長く、この場所を守っていきたいです。もっと老犬ホームが増え、動物管理センターに行く前に『まず老犬ホームに相談しよう』という選択肢が増えることを、願っています」


老犬ホーム「ティアハイム・ノア」
住所/札幌市東区北22条東8丁目2-3 1F
電話/011-768-7310
HPhttps://tierheim-noah.life
※詳細はHPを確認の上、お問い合わせください。

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