前回に引き続き「動物愛護週間」特集です。今回は、札幌市在住の行政書士「オフィス・プライム・アイ」の代表であり、NPO法人HALAW(ホッカイドウ・アニマル・ロー)の代表理事を務める今井真由美さんにお話を伺いました。
今井さんは、多感な時期から猫が身近におり、たくさんの猫と暮らし続ける大の愛猫家。愛護動物取扱管理士などの資格も有し、6年前、道内に初めて「ペット信託」を持ち運びました。HALAWでは、ペットの適正飼育、終生飼養を含むペットライフ支援を、法的な立場から発信しています。
――今井さんにとって、猫の存在とは。
今井 少し重い話になりますが、実は15歳のとき、学校ではいじめに遭い、家庭では両親に「必要ない」と言われ、居場所がありませんでした。死を意識していたとき、実家の納屋に棲みついていた猫たちが、ニャアニャアと私に寄ってきて。猫からすれば、ただ私に「エサをちょうだい」と催促しているだけですが、そのときの私には、自分を唯一必要としてくれる存在に思えました。
当時はまだフリースクールなどがなかったため、16歳で高校を中退し、新日高から札幌に出て、通信制の学校に通いました。バイトは時給500円。生きていくのに必死でした。
社会人になったある日、友人が長期間自宅を留守にするということで、猫を預かりました。それはそれは楽しくて幸せな2カ月間だったため、友人に返したあとには、すっかりロス状態に。
そんなとき、夫がペットショップの狭いケージにいたのを見かねて、猫を連れて帰ってきました。初代猫のティファニー(チンチラ)です。
そこから夫も“猫スイッチ”が入り、将太(シンガプーラ)、チャラ(アメリカンショートヘア)、ゾロ(ベンガル)が次々に仲間入りします。共通点はみな、ショップに長い時間おり、狭いケージで身体を丸めていたことです。猫たちのより良い住まいを求めて、家も購入しました。それが25歳のときです。
――“にゃんこ御殿”ですね。
今井 いつも猫のためにと、猫が生活の中心でした(笑)。その後、私は祖母の介護や母のパーキンソン病のケアをすることになります。いまほど介護サービスが充実していなかったため、介護=身内がやるもの、という状況でした。
母に関しては、夕方仕事が終わり次第、札幌から静内へバスで向かい、行政書士になるための勉強もして……と、大変ハードな遠距離介護でした。
同時期、介護に追われる私を見た夫が「俺たちがいなくなったら、この子(猫)たちはどうなるんだろう」と口にしたのがきっかけで、ペット信託を知り、学びへと繋がりました。
当時、母には「お母さんと猫、どっちが大事なの?」と問われたこともあります。内心“私が辛いときには助けてくれなかったのに、なぜ私が母を世話しなければいけないの?”と葛藤したこともあります。そんなときでも猫たちに触れれば、じんわり心が整っていくようでした。
そんな母に対しても、申し訳なく思っていることがあります。パーキンソン病が発覚する前、母にチャラを預けていたことがあるのですが、主治医から「猫と暮らせる状況ではない」とドクターストップがかかり、その言葉を鵜呑みにした私は、母からチャラを取り上げてしまいました。
足が思うように動かなくなる母にとって、チャラは生きる希望だったに違いありません。ペット信託は、母への贖罪の意も込めて「高齢者とペットの暮らし」をサポートするひとつの術だと考えています。
――今井さんご自身も、愛猫のペット信託を始められたそうですね。
今井 私たち夫婦も歳を重ね、猫たちと共倒れするようなことがあってはいけないと強く感じたのがきっかけです。ただ、あくまでもペット信託は“万が一の備え”と考えるようにしています。
これから犬や猫、その他の伴侶動物を迎えようとする方、そして販売する方々にも、必ず意識していただきたいのが「適正飼育」と「終生飼養」が可能かどうかです。看取る覚悟なしに、ペットと暮らすことはできません。これを一人ひとりが遵守できなければ、いくらペット信託が普及しても、行き場のない不幸な命が減ることはないでしょう。動物との暮らしは素晴らしいものですが、ご自身の年齢や身体・経済状況を踏まえ、冷静にジャッジしていただきたいです。
また、後を絶たない多頭飼育崩壊問題ですが、その飼い主に多い共通点は、社会から孤立し、ゴミ屋敷になっているケースです。まだ行政は縦割りなことが多いため、まずは私から“横になって見る”のを意識しています。ペットに関する相談があった際も、その方自身の生活や終活についてまでをお聞きし、ペットと飼い主さんの双方をサポートできるように努力しています。
――社名にもなっている愛猫・プライムちゃんについてもお聞かせください。
今井 プライム(ミヌエット)は、チャラが亡くなり、ペットロスに陥っているときに迎えた子です。とても賢く、なかなか先住猫に馴染めなかったゾロと仲良くしてくれました。しかし昨年の1月、パッタリと突然死してしまいました。
心の準備もなにもないままの別れ。激しく動揺し、落胆する私でしたが、周囲の方々も共に悲しみ、励ましの言葉をかけてくださいました。そのときに気づかされたのが、ペットは内にこもって飼うのではなく、周囲にもオープンにし、情報共有する大切さです。特に猫は犬と違い、社会に出る機会が少ないため、一人で抱え込みやすくなります。
もちろん、どんなコミュニティに属すか、どんな人と付き合うかの見極めも重要です。そのひとつに「わんにゃんハート会員」というコンテンツもあると思います。私も入会し、情報をシェアしたり、共感する内容にエールをもらったりしています。
――ありがとうございます。最後に、読者に伝えたいことを教えてください。
今井 私はよくHALAWのセミナーで、人間には2つ“自分ではどうすることもできないことがある“とお伝えしています。それは「病気にかかること」と、自死を除いた「命の期限」です。それは動物も同じであり、彼らには私たち飼い主しかいません。人の生き方や選択次第で、ペットの生涯を大きく左右するということを、決して忘れないでください。そしてどうか最期まで、一緒にいてあげてください。
思春期には命を絶つことまで考えた私ですが、猫に生かされて、いまがあります。これからも愛猫のため、そしてお客様たちの猫を見守り続けるため、日々精進していきたいと思います。
――ありがとうございました!
NPO法人 HALAW(ホッカイドウ・アニマル・ロー)
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