「ラブレス」や「ホテルローヤル」などで知られる、釧路出身の作家・桜木紫乃さん。先日公開された映画「ホテルローヤル」は、累計発行部数100万部を超える直木賞受賞作です。

「新官能派」のキャッチコピーを持つ桜木さんは、実は大の動物好き。現在もミニチュア・シュナウザーのナナちゃん(♀・12歳)と暮らされています。

ナナちゃんとの出会いや暮らし、動物への想いなど、文壇の女王の素顔に迫ります。

「忠犬ハチ公」から1を引いて「ナナ」と命名したら〝ロク〟でもないことに…!?

― (撮影を終えて)ナナちゃん、12歳とは思えないほどお元気ですね。

桜木 吠える、走る、食べるで、活きがいいでしょう(笑)。加齢とともに、少し毛が白くなってきましたが、まだまだパワフルガールっぷりは健在です。

― ナナちゃんとの出会いを教えてください。

桜木 家族みんな動物が好きで、ハムスター、モルモット、ウサギなど、たくさんの小動物と暮らしてきました。リビングがちょっとしたペットショップ状態だったこともあります。主人がその子に合った「こだわりのミックス食」をつくるからか、比較的みな長生きでした。

12年前に訪れたショップで、アピールしてくるレバー色のミニチュア・シュナウザーがいて、目が合いました。それがナナとの出会いです。

以前、作家の藤堂志津子先生がリッキーというヨークシャー・テリアと暮らされており、札幌で60歳のお誕生日をお祝いしたときに、犬の話をとても楽しそうにされていたんです。犬と還暦を迎えるって素敵だなぁ、と思いました。

ナナとの出会いは私が43歳のときだったので、思わずショップの人に「この子は17年以上、生きてくれますか?」と聞きました。「きっと長生きしてくれますよ」との返答で、家族になることを決めたんです。

私は2〜3冊目を執筆していたときで、主人が「この子がいてくれたら、紫乃さんの運動不足解消にもなる。家族みんなで気持ち良く迎えよう」と言ったのを覚えています。

― ナナという名前の由来は?

桜木 「忠犬ハチ公」のようになってほしい。いや、そこまで賢くなくて良い。1つ引いて、ナナにしよう。と思ったら、ロクでもない子に育ってしまった、というオチです(笑)

― ご多忙な桜木さんにとってナナちゃんとの生活は、ご家族のサポートが欠かせないですね。

桜木 28歳の息子と23歳の娘がいるのですが、ナナが長女という感じ。息子を呼びつけて「撫でなさい」とアピールしたり、娘が散歩するときには「私についてきなさい」とナナがリードしているようです。

夫が定年を迎え、夫婦二人でいるときには、ナナが共通の話題になっています。

動物や弱いものに優しくできないのは〝健やか〟じゃない

― 「終生飼育」は当たり前と言われている一方、残念ながら動物虐待や飼育放棄は後を絶ちません。

桜木 動物や弱いものに対して優しくできないのは〝健やかじゃない〟と感じます。それぞれに事情があり、一概に責めることはできないのかもしれませんが、動物に危害を加えたり放っておくというのは、とても残念なこと。

先ほども述べたように、我が家にはたくさんの小動物がおり、別れを経験しています。手のひらサイズのハムスター(ロボロフスキー)が亡くなったときも、家族4人で悲しみました。中には血を吐いて絶命した子もいます。どんなに小さくても尊い命だということを、忘れずにいたいですね。

― ここでナナちゃんとの12年を振り返り、いかがですか。

桜木 おかげさまで大病することなく、元気いっぱいに暮らせています。後悔があるとしたら、避妊手術のときに怖い思いをさせてしまったのか、あれから警戒心が強くなってしまったことでしょうか。

大変なときも良いときも、彼らは変わらずそばにいて、癒してくれます。これからも変わらず、朝はナナの「腹減った〜」で目覚め、一緒に長生きしていきたいです。

犬が飼い主を選べないように、人間も生まれる家を選べない

― 最後に、現在公開中の「ホテルローヤル」のPRをお願いします。

桜木 私の実家である、釧路のラブホテルを舞台にした作品です。犬が飼い主を選べないように、私たちも生まれてくる場所を選べません。

親が喜んでくれるから、何の疑問も持たずに、ただ一生懸命ホテルの仕事を手伝ってきました。もし結婚していなければ、私は雅代(主人公)のように働き、二代目オーナーを務めていたかもしれません。

誰も恨んでいないし、すべてありがたいことだと思っています。自分に起きるあらゆることを受け入れて、いまがあります。

ちなみに、雅代の父役・大吉は、亡くなったモルモットの名前からきています。ちょうど「ラブレス」が直木賞落ちしたときに亡くなった子でした。一緒に暮らした小さな生命たちは、こういった形でも生きつづけています。

― 桜木さん、ナナちゃん、ありがとうございました!

桜木 紫乃
1965年北海道釧路市生まれ。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。2007年、同作を収録した『氷平線』で単行本デビュー。2013年『ラブレス』で第19回島清恋愛文学賞、『ホテルローヤル』で第149回直木三十五賞、今年『家族じまい』で第15回中央公論文芸賞を受賞。『硝子の葦』『無垢の領域』『ふたりぐらし』『光まで5分』『砂上』『氷の轍』『裸の華』『霧(ウラル)』『それを愛とは呼ばず』『起終点駅(ターミナル)』『ブルース』『星々たち』『蛇行する月』『ワン・モア』『誰もいない夜に咲く』等、ほかにも多数の著書がある。

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『ホテルローヤル』公式HP
https://www.phantom-film.com/hotelroyal/

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